ここ数年、映画『男はつらいよ』などの全シリーズを見てつくづく思うのは、その時代の名女優さんたちの声の艶、声色、声のトーンの美しさです。若い時は声色や声のトーンといったものはあまり気にしたこともなく。
例えば怒っていれば、それなりの怒ったような声が出ますし、落ち込んでいれば力ない声が出ると思います。また、好きな人を前に話す時は緊張してしまったり、もじもじして上手く言葉にならない、なんてことは誰しもが経験しているのではないでしょうか。
しかし、声色や声のトーンを気にして話したり、巧みにコミュニケーションするというのは、役者など演じる側の人であれば意識して芸の肥にしているのではないでしょうか。
つまるところ現代人は、怒るか泣く落ち込むかぐらいで声のトーンは感情的に変化しますが、自主的に声色を気にしたり、声のトーンを気にすることは皆無なのではないか?と思い、今回このような記事を書いてみたいと思います。
そもそも、「声のトーン」や「声色」とは、どういうものなのでしょうか?
コミュニケーションの重要な要素
まず、声のトーンや声色は、コミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。これらは、話し手の感情や意図を伝える上で、言葉の内容だけでなく、どのようにそれが発声されるかによっても大きく左右されます。以下で、声のトーンと声色について詳しく説明します。
声のトーン
声のトーンとは、話し声の高さや強さ、そして話し方の「音」の質を指します。トーンは、話し手の感情状態や態度を反映することが多く、同じ言葉でも異なるトーンで話すことで、受け取り手に対するメッセージの意味が大きく変わることがあります。例えば、穏やかなトーンは安心感や友好性を、高いトーンは興奮や緊張を、低いトーンは真剣さや権威を示すことがあります。
声色
声色とは、声の「色」や「質感」と訳されることがあり、個人の声が持つ独特の特徴や響きを指します。声色は、その人の性格や現在の気持ち、さらには健康状態までをも反映することがあります。例えば、明るくクリアな声色は元気やポジティブな態度を、かすれたり低い声色は疲れや落ち着きを表すことがあります。
大原麗子の美しい声
声のトーン、声色の美し過ぎる名女優と言えば大原麗子です。映画『男はつらいよ』でも第22作『噂の寅次郎』、34作『寅次郎真実一路』で2つの作品でマドンナとして出演しています。
大原麗子さんは、その儚くも美しい声質、品のある声と演技力で多くの人々を魅了し続けた日本を代表する女優の一人です。彼女の声は、その美しさと特有の響きで、多くの映画ファンや『男はつらいよ』シリーズの愛好者から高い評価を受けています。『男はつらいよ』での彼女の役どころは、寅さんの心を掴むマドンナとして、シリーズに新たな風を吹き込みました。
ファンサイト「寅さんとわたし」が評する「耳に残る湿った声」という表現は、大原麗子さんの声が持つ独特の魅力を見事に捉えています。彼女の声には、柔らかさと深みがあり、聞く者の心に深く響き、感情を豊かに揺さぶります。その声は、彼女の演じるキャラクターに深い内面を与え、観る者に強い印象を残す要素の一つとなっています。
大原麗子さんの声の美しさは、ただ単に耳に心地よいというだけではなく、彼女の持つ人柄や演技と深く結びついています。彼女の声からは、優しさや慈愛、時には寂しさや切なさが感じられ、それが彼女の演じる役にリアリティと多層的な魅力を与えています。また、その声は彼女の美貌と相まって、彼女の演じる役をより魅力的に、記憶に残るものにしています。
声のトーン、声色を意識して話す
大原麗子さんの声を聞いていると、彼女は抑えめの声で話ながら、品がありその中で声のトーンや声色を見事にコントロールしているように思います。普通の人は、ただ話せば良いと思っている人が多いと思いますが、声のトーン、声色を意識して話す練習をすると、また違ったコミュニケーションが可能になるのではないでしょうか。
能登半島地震での、NHKアナウンサーの声
2024年1月1日に起こった能登半島地震では、地震当初に津波が来ることが警戒されていました。2011年3月11日の東日本大震災のこともあり、NHKは大きな地震の直後にアナウンサーが声のトーン、声色を駆使して「高いところで今すぐ逃げないと危険」であることを、その声で懸命に伝えました。
そのアナウンサーさんは山内泉アナです。山内アナのその時のアナウンスは、まさにアナウンサーとしての責任と使命を体現した瞬間であったと言えるでしょう。大きな地震が発生し、津波の警戒が必要な状況下で、彼女はただ情報を伝えるだけではなく、聞き手に行動を促すための緊迫感と緊急性を声に込めました。このような状況では、情報の正確性と迅速性が求められると同時に、その情報をどのように伝えるかが非常に重要になります。
アナウンサーが声のトーンや声色を駆使することで、聞き手の感情に訴えかけ、必要な行動を促すことができます。山内アナの場合、彼女の声にはただ急ぐべきだという緊急性だけでなく、聞き手への深い配慮と、安全を確保してほしいという切実な願いが込められていました。その声は、聞き手に直接的な恐怖を感じさせるのではなく、状況の重大さを理解し、迅速に行動を起こすよう促すものでした。
このような状況でのアナウンサーの役割は、単に情報を伝えること以上のものです。彼らは、情報を通じて人々の生命と安全を守るための橋渡しをする存在となります。山内アナのように、プロフェッショナルとしての技術と人間性を兼ね備えた対応は、多くの人々にとって心強いものであり、深い信頼感を与えます。
"絶叫アナ"という表現は、その瞬間の彼女の声の強さや緊急性を表すものかもしれませんが、それ以上に、彼女がその声を通じて伝えたかったメッセージの重要性に注目すべきです。アナウンサーとしての彼女の行動は、多くの人々にとって、危機的状況における正しい行動を促す貴重な指針となりました。